泰日文化倶楽部のすぐ近くに小さな古本屋が有る。この店に気づく人はそう多くはいるまい。先日、ここで『神さまは雲の中』(宇野千代 角川春樹事務所発行 1997年)を買った。定価480円だが、古本だから210円。しかし本自体に汚れは全く無かった。
宇野は交流した作家達や詩人、そして、評論家との思い出を書いているが、谷崎潤一郎、川端康成、小林秀雄、のところを読んだだけでも非常に読み応えがあった。そして、最後の項目には自分自身のことを書いている。
「私は他にも一つ仕事を持っていることで、自分に人を面白がらせる才能がなくても平気になった。五十を過ぎた頃になって、私は始めて(注:ママ)、考えることをし始めた。何を書くのか。何を書かなければならないのか。言い替えると、文学者としての、初歩的な段階にやっと辿りついた。私には書きたいと思うことがはっきりして来た。いま、七十を過ぎているが、格別、急ぎはしない。書きたいと思うことがみつかると書く」
宇野千代は98歳まで生きた。死ぬまで、現役作家として、ゆっくり書いた。
つばさ橋
カンボジアとベトナムの間を流れるメコン川に、今日、「つばさ橋」、カンボジア語で言うと、「スピエン・ツバサ」が開通するそうだ。全長2215m。おお、長い! 南部経済回廊の道路の役割を果たし、ベトナム、カンボジア、タイの3ヶ国が流通面で一気に近づいたことになる。2001年には、「きずな橋」というのがすでに建設されているとのこと。
おめでたい話に少しばかり水を差すのは失礼だが、橋の命名の仕方にもう少し一考の余地はなかったのであろうか?
何故ならば、タイ人もカンボジア人も、そして、おそらくベトナム人も、日本語の「つ」、「ず」の発音が難しく、「つばさ橋」は、「すばさ橋」、もしくは、「ちゅばさ橋」、そして、「きずな橋」は、「きすな橋」にしか発音できないからである。
「あつし」という男性、そして、「ちずこ」という女性から、悩みをうちあけられたことがある。理由はタイ人からきちんと自分の名前を呼んでくれないというわけだ。母国語に無い音を発音するのはどんなに頑張っても苦しい。
何を着たらいいのかわからない
花寒の日が続いている。タイ人講師の口から、「ใส่เสื้อไม่ถูก サイ スア マイ トゥーク 何を着ていいかわからない」という言葉を聞く。
なるほど、悩みは同じなんだ。四季がある日本、天気がはっきりしない日本で暮らす外国人も、洋服には頭を悩ましているようだ。
ところで、「ใส่เสื้อไม่ถูก」という構文だが、タイ語を習っている人にはなかなか馴染めないみたい。タイ語では、「着る+洋服+ない+正しい」の語順。即ち、「洋服を着ることが、正しくない」という流れ。
この構文は、「บอกไม่ถูก うまく言えない」、「ไปไม่ถูก (その場所に)ちゃんと行けない」という表現にも使われる。
このような表現はとにかく使ってみることだ。日本語と異なる語順の場合、何も考えずに覚えてしまい、さっさと連発することが一番。
50年x8名=400年間の人生
昨日、大学時代に一緒に学寮で過ごした寮友8名が集まった。地方から出て来た者同士が初めて会ってから50年。新幹線が開業し、東京オリンピックが開催されてから半年後のことである。
互いに50年間の人生を語り合った。50年x8名=400年間の人生は、それぞれに聞くに値するものであった。
一番嬉しかったこと、それはすぐに昔の気分に戻れたことだ。顔は老けたかもしれないが、声、そして、話し方は全く変わらない。
8名の中で、現役で働いているのは私ともう一人だけ。彼女は結婚して吉川さんになった。彼女の仕事は7ヶ国語で書かれた膨大なる資料を読み、某業界に関する分析結果を毎月、まとめているそうだ。
語学を専攻したわけではないので、彼女はこう言い放った。「7ヶ国語全部、独学なのよ」
7ヶ国語の中にタイ語は入っていなかった。
元生徒さん達の近況
4月に入り、元生徒さん達から嬉しいメールが入った。
M氏の報告=日本語教師の免状が取れました。4月からは日本語教師になります。余裕ができましたら、タイ語の勉強を再開いたすつもりです。
H氏の報告=按摩マッサージ指圧師、はり師、灸師の国家試験に合格しました。
T氏の報告=現在、タイと東京を往復しております。タイ語は現地で勉強しております。発音と声調、むずかしいですね。
皆さん、春爛漫の境地であられることであろう。地道に努力をして、初志貫徹することはなんと楽しく、嬉しいことか!
世界最高齢者
昨日、世界最高齢者であった大川ミサオさん(注:オは、旧カタカナ)がお亡くなりになった。1898年(明治31年)3月5日に誕生されたので、117歳になったばかり。
私の関心は、19世紀に生まれた日本人として、彼女が最後の日本人であったということ。理由は、私の父も同じ1898年生まれであったから。
大川さんの長生きの秘訣は、「美味しいものを食べること」、「ゆっくり暮らすこと」、「よく寝ること」、だそうだ。
そう言えば、先日、未承認ではあったが、127歳で亡くなったメキシコ女性のモットーをネットで読んだことがある。それは、「よく寝ること」、「チョコレートを食べること」、そして、「結婚はしないこと」、であった。
二人の女性のモットーを真似すれば、90歳~100歳まで生きていけるにちがいない。
そうだ、あと一つ、追加させていただこう。「言葉を学ぶこと」!
新学期・新年度
今日から4月! 桜も満開! 新学期、新年度の始まりだ。新入生達のウキウキ感は実にうらやましい。
ところで、会計年度のことを、タイ語では、「ปีงบประมาณ ピー(年)+ゴッププラマーン(予算)」という。今日から生活必需品、すなわち、インスタント・コーヒー、牛乳、チーズ、ケチャップ、等々の値段が上がるそうだ。これは大変。家計簿をしっかりとつけて、予算配分を常に考慮に入れないといけない。
タイ語の「ゴッププラマーン」は、ゴップ=合計する、プラマーン=見積る、という意味から成立しているが、プラマーンには、もう一つの意味が有る。
それは、<およそ、だいたい、約>という意味である。
どんなに緻密に数字をはじき出しても、計算通りにうまくいかないのが予算であり経理だ。あまり深刻に考えるとつらくなる。そこは、アバウトな態度で向かうのも一考。
昔から言われていることだが、タイ人は「ゆるやかな生き方」を備え持っている。そこに我々日本人は魅力を感じる。
Lupper へのお誘い
知人から、「Lupperをしますから、どうぞいらしてください」というお誘いを受けた。
lupper? 恥ずかしながら初めて知った。lunch と supper の間の食事のことを言うらしい。なるほど、そういえば、朝食と昼食の間の食事をブランチというから、そのノリで造成されたのであろう。
このような言葉遊びがタイ語にも有るかなあと思ってみたが、今のところ、みつからない。あっ、そう言えば…..。有った!
入門したばかりの生徒さん達は、<サワッディー こんにちは>と、<サバーイディー 元気がいい>の音の違いがわからなくて、<サバッディー>と発音することが多い。忙しい世の中、この単語のほうが省エネになる。だが、それはいけない。やはり、本来のサワッディー、とか、サバーイディーという挨拶語は愛嬌を持って発音したほうがいい。
旅は道連れ 世もながれ
昨夕、授業が終わって、目白駅に戻って来ると、駅舎内に幼稚園の園児と小学生が合作した絵が掲げられていた。子ども達の絵を見るのは好きである。無邪気だから。そして、色合いが明るいから。
ところが、絵の表題を見てびっくりした。<旅は道連れ、世もながれ>と書いているではないか….。
私は何度も反芻した。「たしか、旅は道連れ、世は情け ではなかったかしら?」
私が間違っているのであろうか。それとも時代が変わってしまったのであろうか。
非常に面食らった。そして、自分に言い聞かせた。
「そうだ。世はすでにスマホの時代。指先で軽く押すだけで画面はばんばん変わる。欲しい情報は取り放題。世の中の動きは小さな表示画面の中で流れに流れている。<世は情け>なんか、どこ吹く風か….」
新学期の準備
そろそろ4月。新学期の準備をしなければならない。まずは教材から。
『タイ語入門』と『タイ語会話初級』はすでに印刷会社から届いている。『タイ文字書き方帳』も、生徒さんがタイから買って来てくださった。
あとはCDの複製のみ。高田馬場にCDを複製する会社が有るので、発注に行った。すると、そこの社員がCDの具合をチェックした。まず聞こえてきたのは、「サワッディ―」。
するとその社員はすかさず言った。「タイ語ですね」
私もすぐに応じた。「あら、タイ語、わかるんですか?」
「こんどのゴールデンウィークにタイへ遊びに行きます」
それを聞いて、宣伝がてら、つい言ってしまった。
「高田馬場のHIS、わかりますか? あそこの隣りのビルでタイ語教室をやってます」
素敵な男性だ。是非、タイ語を習いに来てほしい。