宇野千代の「書くということ」

泰日文化倶楽部のすぐ近くに小さな古本屋が有る。この店に気づく人はそう多くはいるまい。先日、ここで『神さまは雲の中』(宇野千代 角川春樹事務所発行 1997年)を買った。定価480円だが、古本だから210円。しかし本自体に汚れは全く無かった。
 宇野は交流した作家達や詩人、そして、評論家との思い出を書いているが、谷崎潤一郎、川端康成、小林秀雄、のところを読んだだけでも非常に読み応えがあった。そして、最後の項目には自分自身のことを書いている。
 「私は他にも一つ仕事を持っていることで、自分に人を面白がらせる才能がなくても平気になった。五十を過ぎた頃になって、私は始めて(注:ママ)、考えることをし始めた。何を書くのか。何を書かなければならないのか。言い替えると、文学者としての、初歩的な段階にやっと辿りついた。私には書きたいと思うことがはっきりして来た。いま、七十を過ぎているが、格別、急ぎはしない。書きたいと思うことがみつかると書く」
 宇野千代は98歳まで生きた。死ぬまで、現役作家として、ゆっくり書いた。