一犯一語

フランス文学者の椎名其二氏(1887-1962)を検索していたら、社会思想家の大杉栄(1885-1923)が関連して出てきた。大杉が翻訳していた『ファーブル昆虫記』を、大杉亡き後、椎名が引き継いで翻訳して完訳させたことがわかった。
 ところで、大杉栄だが、彼は軍人の父親の勤務の都合で、香川県丸亀市で生まれている。しかしすぐ他所に移って行ったようであるから、丸亀で彼の話を聞いたことは一度もない。
 私が彼のことを紹介する文章を読んで関心を持ったことは、彼のモットーが、「一犯一語」というものであったということだ。彼は活動家として逮捕されるたびに、「一犯一語」を自分に課し、まずはエスペラントから始め、次に、イタリア語、ドイツ語、ロシア語、スペイン語と学んで行ったようである。逮捕されて最初の3ヶ月で初歩を習得し、6ヶ月で字引き無しで解読することを目標にしたとのこと。フランス語はもともと出来たので、ヨーロッパの言語の習得は早かった。とはいえ、相当の集中力であったに違いない。
 彼曰く、「もう少し刑期が延びないものであろうか」、と。

お好み焼きを焼く人

高田馬場駅前にあるビルの地下に、昨年からお好み焼きの店が開店した。広島風ということなので、3回ばかり食べに行った。
 私は焼いているところを見たくて、いつも鉄板焼きの前に座ることにしている。水で練った小麦粉を垂らして直径10センチくらいの円形にするのが面白い。刻んだキャベツを7センチくらい、その円形の上に山盛りにして、次に豚のスライスを3枚ばかりのせる。しばらくすると、ひっくり返すのだが、これがまた見事だ。最後に卵を1個、その円形の下に押し込み、ぐいぐいと上からへらで押さえつけ、形を整える。この間、約7分くらい。
 お好み焼きの焼き方くらい誰でも知っているので、何故、こんなことを書くのかと思われるであろう。だが、今日、私がこれを書くのには理由がある。
 その理由とはこうである。1枚約千円くらいのお好み焼きの原価たるやせいぜいが百円程度。ところが、お好み焼きを焼く店の人の顔付きは実に真剣そのもの。そして、手さばきはまるで1万円のステーキを焼くが如し。都内の有名ステーキ店のシェフに劣らない。
 私は焼く人の技に見入ってしまった。原価百円のものを、まるで1万円のステーキと同じように焼く真剣度。何の仕事であれ、仕事はこうであらねば、と教えられたわけだ。

根岸の薬膳居酒屋

昨日、仕事が終わったあと日暮里へ行った。最近、知り合ったばかりの方が根岸で薬膳カレー屋をやっていると聞いたので、根岸界隈を歩いて訪ねてみることにした。
 店は夕方6時開店だった。したがって、1時間、散策。まず、目に止まったのが、「文政二年創業 羽二重団子」の店だ。文政二年は1819年。かれこれ200年になる。店頭のすぐ傍に、「王子街道」という石碑が立っていた。埼玉や群馬へ行く人達が通ったのであろう。夏目漱石が愛した店とのこと。
 創業350年になる豆富料理店「笹乃雪」まで歩くと、町のそこかしこに正岡子規の俳句が紹介されており、風流であった。言葉を愛する生活はなんとすばらしいことよ。
 6時過ぎ、「温気瑠」という薬膳カレー屋に入った。ここは夜、薬膳居酒屋となる。店の読み方は「オンケル」。名前の由来は、「アンクル。おじさんですよ。ドイツに旅行した時、気に入った店があり、それがオンケルだったから」と、店主は説明してくださった。
 まずは定番の薬膳カレーを注文。30種類の雑穀と20種類の野菜で作ったカレーだ。健康のために毎日通って来たくなった。
 この店には顧客がついているようだ。店内の写真や似顔絵で分かる。大人の集まりの場所として、いろいろな職業の方達が集っているのを聞くと、また行きたくなった。

大学生2名の感想

昨日、上智大学へ出講した。4月から数えて、第11回目であった。いずれの学生も皆、タイ語の発音がいい。若いから耳がいいのだろう。
 S子さんが言った。「先生、私がバイトをしている店にタイ人が来たんです」 
 私はすぐに尋ねた。「あら、あなた、タイ料理店でバイトをしているの?」
 「いいえ、メキシコ料理店です。先生、私のタイ語、通じました!」と彼女が嬉しそうに言ったので、私も得意になって応じた。「もちろんですよ。すぐに使えるタイ語を教えていますからね」
 他に、W君の感想も嬉しかった。「ムエタイ・ジムでタイ人コーチにタイ語で話しかけると通じました。日本人である会長がタイ語で話しても全く通じないんです。変だなあ?」
 私は自信を持って言った。「あなたにはしっかりと発音訓練をさせています。だから、あなたが話すタイ語はタイ語としてちゃんと聞いてもらえるのよ。発音を徹底して学んだことがない日本人のタイ語はタイ人には通じません」
 彼らは私の授業を15時間受けた段階で、タイ語がタイ人に通じたことを確認したことになる。二人ともとてもすばらしい笑顔を見せた。

水曜日の5クラス

泰日文化倶楽部では、水曜日に5クラスの授業を開講している。
(1)タイ語入門13:00=男性の生徒はムエタイの古式型に関心がある。女性の生徒は近々、御主人が駐在しているバンコクへ出発だ。
(2)タイ語中級15:00=このクラスは高齢者ぞろい。「8月はお休みにいたしましょうか?」と私が言うと、「毎日が休日だから、お休みは要りません」と元気な返事が返ってきた。
(3)タイ語中級18:30(707号教室)=9ヶ月、休学しておられたM氏が昨晩から復帰された。定年で職場が変わったため多忙であったことは知っていたが、新しい会社はタイと関係があるとのこと。タイ語ができることは強みである!
(4)タイ語中級18:30(806号教室)=タイの冠婚葬祭や伝統行事に関する単語や文章を学んでいる。難しそうだが、皆さん、楽しそうに勉強しておられる。
(5)タイ語中級20:00=このクラスの生徒達は毎年、8月に夏休みを取る。バカンスは必要だ。タイで鋭気を養ってほしい。

タイ語入門の生徒達

昨晩、「タイ語入門 月曜日19:30」に7名の生徒が参加した。火曜日や木曜日の生徒達もサービスで入ってはいるものの、活気が有って、とてもいい雰囲気であった。
 男性が2名、女性が5名の構成。これまでは男性の比率が女性を上回っていたが、6月からそれが逆転した。女性の皆さんがタイに関心を持たれることはいいことだ。タイ固有のすばらしさを女性の眼で発見してほしい。
 女性5名のうち、2名は中国人である。一人の中国女性がタイ人講師の質問にどう答えていいのかとまどっている時、もう一人の中国女性が中国語で助け舟を出した。その中国語たるや実に速かった。
 中国人達はタイ語の勉強が楽しくてたまらないようだ。あくまでも趣味で学んでいるそうだが、二人とも日本語はペラペラなので、タイ語の習得も早いと思われる。
 私は言った。「政治のこと、あまりわからないのよ」 すると、中国人が言った。「政治は政治。私達は仲良くしましょう」

水道の栓はしっかり閉めよう

昨日、教室へ行くと、洗面所の水道から水がちょろちょろ流れている。おそらく、土曜日の16時以降からずっと流れていたと考えられるから、20時間も流れっぱなしだ。
 どうしてこんなことになったかと考えた結果、次なることを想定した。
 最近のトイレはほとんどがセンサー式になっており、水道の蛇口の下に手を近づけさえすれば勝手に水が流れてくれる。水道の栓を閉めるということは少なくなった。家庭に於いても、システム・キッチンというものは、水道の蛇口の部分がレバー式になっている。
水道の栓を閉めるという行為が必要でなくなってきているので、水道の蛇口の扱いが甘くなっているとしか思われない。
 考えてみれば、水道の蛇口は決して清潔ではない。センサー式のほうが衛生上、はるかによろしい。だが、それはそれとして、これから先、日本人の多くが水道の栓をしっかりと閉めなくなったとすると大変。
 お説教じみて恐縮だが、今日で今年も半分が終わる。箍(たが)が弛んでいるはずだ。気を引き締めて、2014年後半を迎えよう。

ネパール料理店 vs そば屋

 昨日、仕事に行った場所は東京と埼玉の境目辺りであった。道路の片側は住宅街、一方、反対側には工場やバスの車庫が有った。
 さて、昼休みになったので昼食を取るため周辺を歩いた。だが食堂らしきところが見当たらない。やっと見つかったのが、アジア料理店。タイ料理があるかもしれないと思ったが、店先に置かれたメニューの写真はいずれもインド・カレーであった。ネパール国旗が目に止まったので、もしかすればネパール料理店かもしれないと思い、店の引き戸を開けると、店内は会社員らしき人達でいっぱいであった。そして、小柄なネパール人ウェイターに、満席だからダメという合図をされた。
 ひなびた場所だから、誰も入っていないと思いきや、なんと客は大入りであった。
 致し方なくその店をあとにして、数件、歩くと、今度はそば屋ののれんが目に入った。そこに入るしかないと思い、引き戸を開けると、工場の工員さん達がやはりたくさんいた。私はとろろそばを注文し、工員達を観察した。
 ネパール料理店の看板はド派手な色合い。それに比べて、そば屋ののれんは藍に白抜きの文字。遠くから見ると、藍ののれんの方がよく目立った。

第87回「アジア女性のための生け花クラス」

昨日、「第87回アジア女性のための生け花クラス」が開催された。5名の参加者を予定していたが、一人の方が体調が悪いということで欠席。お花が一束、余ってしまった。仲間の女性が花の代金を立て替えることになった。
 ところが、昨日、たまたま生徒の彼女(タイ女性)が彼と一緒に教室に遊びに来ていたので、「日本の生け花を生けてみませんか?」とおさそいすると、「はい」というではないか。早速、707号教室に案内し、華道講師に紹介した。
 花を用意しても、時々、欠席者が出て花が残ってしまうことがある。ところが、そんな時に限って、誰かかれかタイ女性が教室に遊びに来ているのだ。毎回、真面目に習うことは精神的に緊張が走るが、たまたま日本に遊びに来ていて、日本の伝統美を肌で実感することはすばらしいことだ。
 「来年、日本に留学して来ます。日本の大学で生け花を専攻したいです。今日はとてもいい体験をしました」と、彼女は見事な日本語で答えた。チュラロンコン大学で日本語を専攻している彼女は、日本文化にものすごく興味を持っているようだ。
 泰日文化倶楽部で「アジア女性のための生け花クラス」を無料で開講して7年半が経過した。タイ女性に喜んでもらって、昨日はとても嬉しかった。

大学院生にタイ語を教えること

昨日の「タイ語初級 木曜日14:30」のクラスに出席した生徒はわずかに1名。その他の方々は諸理由により欠席された。
 1名の出席者は大学院生である。日頃、中・高年の生徒達と一緒になって控えめに勉強しておられるので、私は責任を感じていた。大学院生はタイ研究のためにタイ語を勉強している。したがって、文献が早く読めるようになってほしいと願っているが、グループ・レッスンだから、急にレベル・アップすることができない。
 私は彼女に言った。「今日はあなたお一人だから、あなたに最適なる授業をいたします。何なりと希望をおっしゃってください」
 すると、彼女は答えた。「タイ文字がすらすらと読めるようになりたいんです」
 私はすぐに応じた。「それでは、『タイ語入門』20課の会話文のうち、タイ文字の部分だけをお読みください。きっと読めるようになっていますよ」
 私は彼女の自主性を重んじ、彼女に読ませた。彼女はどんどん読んでいった。あっというまに20課全部を読んだ。
 まだ時間が余って困ったので、タイの小学校国語教科書も読んでもらった。彼女は読めた! 自信がついた顔をして教室をあとにした。