「もみの木」という喫茶店

十一月も下旬に入ったので、喪中はがきが各方面から届いている。その中の一枚は、大阪在住の元生徒さんからであった。お父様が83歳でお亡くなりになったと書いてあった。
 私はそのお父様が経営していた喫茶店へ25年前に行ったことがある。大阪の十三という場所にあり、町の雰囲気はとても庶民的であった。「もみの木」という名前で、素朴さを感じた。
 店の自慢はカウンターが分厚くて長い一枚板であること。お父様の説明によると、大阪万博(1970年)で使用された材木を譲り受け、以後、長きにわたり、気合を込めて磨き上げて来られたそうだ。コーヒーもおいしかったが、それ以上にカウンターの一枚板の存在が印象的であった。
 店主は死ぬまで喫茶店をやり抜くおつもりであった。しかし、ついに寿命が尽きた。