情景描写

『新潮 2017.4』を買った。又吉直樹の第2作目の小説である「劇場」(長編300枚)が掲載されているからである。読み始めてすぐに、冒頭部分の情景描写にぐんぐん惹かれて行った。何故ならば、彼が書いている明治通りから表参道の原宿交差点を曲がる辺り、そこは私が毎日のように歩いている場所であるからだ。
 私のように年をとってくると、はっきり言って、その周辺はできることなら歩きたくない。だから、喧噪がいやになると、東郷神社の池へ行って、甲羅干しをしている亀を眺めている。
 又吉直樹の筆力は実に冴えている。情景描写なら誰でも書けるであろうが、そこに必須要素である主人公の心理がねっとりと練り込まれており、一緒に都内を彷徨している気分になった。年齢に関係なく、共感を覚えた。