鯛との闘い

無事に大学を定年退職した自分を祝って、私は高田馬場駅近くの日本料理店で鯛のお頭を注文した。いつもはまぐろ丼か海鮮丼、あるいは刺身定食を食べるのだが、晴れの日はやはり何と言っても鯛。
 お膳に出て来た鯛のお頭を見てびっくり。何故ならば、優勝した力士が祝賀会で右手に高々と持ち上げるあの鯛くらいの大きさであったからだ。いや、それは誇張しすぎ。しかし、私には大きく見えた。そして、鯛の横顔が私をにらみつけていた。
 恐る恐る身のほうから食べ始めた。頭はあとにした。すると、鯛は私をますますにらみつける。何故、ゆっくりと食べるかと言うと、鯛の骨は強烈な硬さを持っており、小骨であろうとあなどれない。そして、いよいよ箸が頭の部分に入っていった時、私は鯛の頭の中の骨が鉄骨のようにがっちりとしていることを知った。さすが魚の王者である鯛。
 鯛と格闘しながら食べること30分。食べながら思った。鯛は鯛で手ごわいが、翻って考えれば、タイという国を理解するのもなかなか容易ではない。タイとの闘いは死ぬまで続く。