哀悼のタイ王国(30)

次はBTSに乗っていた時の話である。
中国系のおばあちゃんが私と一緒にサイアム駅から乗り込み、たまたま隣りどうしで座った。小さな身体を黒い服で品よく決めている。彼女が私に突然、話しかけて来た。「มาจากไหน」
「どこから来たの?」と尋ねられたから、私はすかさず「日本からです」と答えた。
すると、彼女の声の調子が変わった。「ちがう。向かい側に座っているあのファランの連中のことだよ。よくもあんな色物の服を着て。一体、何と思っているんだ」
彼女は誰かと怒りを共有してほしいらしく、タイ人だとばかり思っていた私にどんどん話しかけて来た。私が丁寧に応対したものだから、そのうち、彼女の家族の話にまで発展して行った。
「私の娘はね、日本に留学して、そのままずっと日本に住んでいるんだよ。医者をしている日本人と結婚。今は京都在住」
彼女の顔は怒りから、いつのまにか齢を十分に重ねた品の良いおばあちゃんに戻っていた。