哀悼のタイ王国(29)

10月20日はプミポン国王が崩御されてから一週間ということで、初七日の行事が執り行われた。全てのチャンネルが、午後6時以降、一斉に切り替わり、御棺が祭られている部屋を中継した。高位高官が公務員の正装である白服に喪章をつけて座っている。その一番最後に、看護師達が数人いた。おそらく国王の最期のお世話をしたシリラート病院の看護師長達であろう。
王族達がお座りになる席は別の一角に設けられている。シリントーン王女のお顔の表情は悲しみそのものであった。何かにじっと耐えておられる。愛する父に向かって、今後のタイの行く末を問いかけておられるようにもお見受けした。
毎晩、テレビ中継されているから、祭壇の部屋の様子や僧侶達の読経には次第に見慣れてきた。しかし、シリントーン王女の御姿だけは何度、拝見しても心がうたれた。特に、祭壇の間に入って来られた時、他の王族達は祭壇の正面に設えられた黄金色の坐椅子に膝をつき、黄金色の小机にこうべを垂れてお参りしたが、シリントーン王女だけは違った。毎回、祭壇横の床に直かにひれ伏してお参りをされた。
亡き父に少しでも近づき、永遠の別れをしている王女の御姿は、私の瞼に焼き付いた。父と娘。そこには誰も入り込めない愛の絆が有るに相違ない。