哀悼のタイ王国(20)

いよいよ宮殿の一部に設けられた拝礼室の階段のところまで近づいた。靴を脱ぐ必要はなかった。中に入ると、2m位の間隔で、カーテンと木製の板が交互に立てかけられていた。カーテンは微風を受けて、少しだけ動きを見せ、まるで内部へいざなってくれているかの感じがした。
 庶民が礼拝するのはその場所どまり。しかしながら、この宮殿の奥のいずこかに国王の御棺が安置されているかと思うと、距離感が縮まったことを光栄に思った。
 1回の拝礼に70人位が床に平伏した。私もプミポン国王に恭順の気持ちを込めてお別れをした。今から10年前、即位60周年の時に、王宮前広場の沿道に早くから陣取り、国王の御姿を10m先で拝顔したことが、昨日のことのように思い出された。その時の国王の御姿は、タイ王国の国王として威厳と慈悲に満ち満ちておられた。そして、今は、王宮の奥深くで永遠の眠りについておられる。