哀悼のタイ王国(19)

テントの下の検問所はなんなく通過した。というか、警官は善良なる市民の悲しみにくれた顔を見て、何ひとつ疑う様子もない。王宮前の道路を渡って、いよいよ門の中に入った。黒服の人々が4列で長々と並んでいた。拝礼場所の入り口まではまだ遠い。時計を見ると、丁度12時であった。
 炎天下で並ぶ覚悟を決めた。暑いなあと思っていたら、隣りで並んでいた中年女性が折りたたみ傘を開き、私に半分さしかけてくれた。その優しさが身にしみた。傘の下で、私達は姉妹になったような気がした。
 拝礼場所の近くまで来ると、テントが張ってあり、並んでいても苦にならなかった。誰かが警備の人に向かって尋ねた。「写真を撮ってもいいですか?」 
 すると、彼は当意即妙に答えた。「かまいません。しかし、ここでいくら写真を撮っても、王様はもうお出ましにはならないですよ」 
 それを聞いた市民がどっと笑った。悲しみの中の笑い。タイ人の明るさに安堵した。