仏像の手

私がタイ大使館(Royal Thai Embassy)に勤務していた時の話である。上司が某大使館の外交官の家で開催されたパーティーから帰って来られた翌日、彼はものすごい不快感を表わした。その理由は、招かれて行った邸宅に仏像の手がアートとして飾られていたからである。タイ人にとって、仏像の体をばらばらにして、その一部を装飾品として飾ってはいけないことをその時、私は知った。欧米人は骨董扱いにして、オリエンタリズムよろしく、部屋に飾るのが好きなようだが……。
 昨日、知人がラインで写真を送って来た。彼女の友人が作った庭の写真であった。東南アジアから送らせた仏像の頭が見えた。私から見ると、その仏像の頭の高さが地面に近すぎだ。低すぎると、歩いている人間の頭のほうがどうしても高くなる。もしもタイ人がそれを見たならば、果たしてどう思うであろうか? 
 40年前にスコータイへ行った時、仏像がひな壇の如く並んでいた。すぐ横に石段が有ったので、上って行こうとすると、タイ人からきつく言われた。「女性は上がってはいけない」、と。タイ人は自分よりも目上の人の前を通る時は、必ず腰をかがめる。とても美しい習慣だ。