伝統の継承

冊子の解説に依ると、「1604年、佐渡奉行となった大久保長安が佐渡に能楽師らを同道したことから佐渡における能楽が始まりました」と書いてある。そして、冊子の最後に、「<舞い倒す>という言葉があるが、それは、能楽が高じて身上を潰すというものです。それは修行を積んで正統な宝生の能を舞おうとする佐渡宝生の本質を内蔵する言葉であると言えます」と、結んでいた。
 私が観た「熊野」のシテは、30年近く修行したのちに初舞台を迎えたという方であった。能に詳しい友人の話によると、シテがすべての経費を支払わなければならないとのこと。ワキの方への謝礼や、謡、鼓の方々への謝礼、そして、何よりも家元から借りてくる能装束の衣装代がものすごく高いそうである。まさしく、<舞い倒す>の世界である。
 いずれにせよ、能楽愛好者によって、佐渡の能はこれからもずっとずっと継承されていく。500年後もきっと存続していることであろう。