天領佐渡両津薪能

6月4日の夜、佐渡市椎崎・諏訪神社能舞台に於いて、「熊野」が演じられた。熊野と書いて、「ゆや」と読むそうだ。
 午後7時半、二人の巫女が松明をもって舞台正面へと向かう。若い男二人が松明を受け取り、左右対称に置かれた薪に火をつける。パチパチと火の粉が飛び、やがて、煙のにおいが舞台を覆い尽くす。
 熊野とは、平家の宗盛の愛妾。その彼女が静岡の磐田にいる母の見舞いに行きたいと宗盛に暇乞いを申し出るが、彼は許さない。清水寺の花見の宴で舞いを舞えと命じる。泣く泣く舞っていると、にわか雨が降って桜の花びらを散らした。不吉な予感に、熊野はいてもたってもいられない。彼女の心痛に同情した宗盛はついに熊野の帰郷を許した。
 以上は、会場でもらった冊子からの抜粋である。一時間半の舞台は実に深淵そのもの。別世界に置かれた一夜であった。