佐渡へ

トンネルを抜けると、水ぬるむ田園が広がっていた。信濃平野はいつ見ても豊かだ。12時35分、佐渡汽船に乗り込む。久しぶりに聞くドラの合図。一年ぶりに再会した大学時代の寮友は、すかさず弁当に手が。70歳になろうとするのに食欲だけは昔のまま。喋っていると、2時間半の船旅はものすごく短く感じられた。
 宿は両津港から車で5分もかからなかった。小高い丘にあったので、佐渡の海や加茂湖が見渡せた。
 我々の旅の目的は、6月4日の夜、諏訪神社で行われる薪能を鑑賞することにあった。5人の仲間の一人が能に精通しており、彼女の誘いに他の者達が賛同したわけだ。
 能を鑑賞する前に、彼女から能に関する講義があるのかと思いきや、彼女は次のように言って、つっぱねた。
 「能は理解しようとしてはいけません。感じるものです」