或る指輪

私は装飾品にはあまり興味が無い。かと言って、全くつけないわけでもない。かつては買いたくてたまらない時期が有ったから、数点は持っている。
 今日は何故、指輪を話題にするかと言うと、毎年、2月上旬になると、或る指輪が私の記憶を呼び覚ますからだ。
 泰日文化倶楽部は1988年10月からスタートしたが、翌年1989年夏頃から一人のタイ人青年がアシスタントとして手伝ってくれるようになった。彼の通称はペン君。当時20歳。心根の優しい青年であった。
 翌1990年2月上旬、ちょっとバンコクへ帰りたいというので、私は快く応じた。しかし、彼は日本に帰って来なかった。交通事故に遭い、天国へ行ってしまったのだ。
 ペン君は日曜日には代々木公園でのフリーマーケットに参加し、タイのグッズを売っていた。商家の息子さんだったから、商品を販売することが好きだったようである。私は彼から指輪を買った。1個¥400。
 その指輪を大切に取ってある。普段はあまり気にしていないが、2月上旬になるとその指輪が気になって仕方がない。
 ペン君が生きていれば、46歳になる。天国から、「泰日文化倶楽部、まだやってるんだね」という声が聞こえてきそうだ。