現在と記憶のあわい

高田馬場駅前にあるFIビルには芳林堂書店が入っている。その芳林堂の4階の隅っこには「古本横丁」というコーナーが設けられている。新刊専門の書店が古本も、とは! とても懐かしい装丁の本が並んでいるので、私にとってはタイムスリップした気分を味わわせてくれる一角だ。
 先日、『書庫の母』(辻井喬著・講談社 2007年)を買ったが、帯の文句にこう書いてあった。<生と死、現在と記憶のあわいを描いた珠玉の作品集>
 この中で、<あわい>という言葉に惹かれた。これは、形容詞の<淡い>ではなくて、名詞形で使われている。なんだか分かったようで分からない単語だ。そこで、ネットで調べると、次なる意味が書かれていた。
 「物と物、時間と時間、人と人など、それらの距離や時間的な相互の関係性や隔たりを、<あわい>という」
 どうやら、仏教的なとらえ方のようであるが、殺伐とした昨今、あふれかえる情報に振り回されるのをやめて、少々、この単語の深さを味わってみたい。