一匹の蠅

4月下旬に「緊急事態宣言」が5月末まで延長されそうな気配を感じた時、一体どうやって過ごそうかと思った。しかし、その5月も終わろうとしている。終ってみれば、退屈することもなく、それなりに過ごすことができた。教室は閉鎖していたが、社会の閉鎖は有り得ないから、犯罪は相も変わらず有る。従っていつも通り通訳の仕事はしていた。
 或る日の昼休み、コンビニでパンとジュースを買って、小さな公園へ行った。2つしかないベンチにはすでに男性が座っており、食パンを鳩にやっていた。「鳩に餌を与えてはいけません」と掲示しているが、餌をやるその男性の気持ちもわかる。私は石でできた一人用のイスをみつけて座り、パンを食べた。
 ふと足元を見ると、一匹の蠅が這いつくばるようにして大地をなめている。誰かがアイスクリームをこぼした跡が有った。それを目ざとく見つけた蠅が幸せそうになめていたというわけだ。一匹の蠅の生き様に教えられるものがあった。