真喜翁

従兄が亡くなったので葬儀に参列するため3日ほど郷里に帰った。従兄の位牌を見て戒名にユーモアが有るなあと思った。戒名は、本人の名前の漢字一字+真喜翁。真に喜ぶ翁とは! 享年92歳。90歳を過ぎているから大往生だ。
 真言宗のご住職は若かった。なかなか洒落た命名である。しかし、天国に旅立った従兄は果たしてその軽妙洒脱な戒名を知っているであろうか? いや、知るはずもない。いずれにせよ、天国でもマイペースで楽しく余生を送ってもらいたいものだ。
 初七日が終わって、従兄の娘が昔の写真を出して来た。そして、尋ねた。「この人は誰?」
 誰もわからない。しばらくして、故人の妹(84歳)が答えた。「長兄が出征する時に記念写真を撮ったものだと思うわ」
 本家の長男は戦死。凛々しい顔立ちの従兄を初めて見た。弟の葬儀の時に彼は約80年ぶりに蘇って来た。あらためて戦争はむごいと思った。