ひと織りひと織り

呉服店から送られて来るDMには、顧客を引き付ける文章が次から次に書かれている。それにおびき寄せられて店へ行ったらおしまい。大枚が飛んでしまうから。
 西陣の帯に関する宣伝文句はこうである。
 「文化元年(1804年)創業以来、菱屋善兵衛の伝統と技を今に受け継ぎ、織の町(西陣)の地で織り続けられる珠玉のおびの数々。ひと織りひと織り精魂込めて綾なされし染織の妙。感動を誘う美の神髄をあますところなくお伝えいたします」
 私はこの文章の中から、<ひと織りひと織り>という表現が気に入った。これが、<ひとりひとり>にも聞こえて来て、職人の一人一人が丁寧な仕事をしているという現場が浮かんで来るからである。
 今から30年前、外務省の仕事でタイからのVIPを案内して西陣へ行ったことがある。したがって、現場の空気感はいまだに脳裏に残っている。何の仕事であれ、コツコツ精神が大切である。語学で言えば、<ひと言ひと言>である。