市原悦子さんを「私は見た」

昨日の夕方のニュースで、市原悦子さんの訃報を知った。私は彼女が主演する「家政婦は見た!」というドラマを一度も見たことがない。しかし、私は彼女を見たことがある。
 1997年に「うなぎ」(今村昌平監督)がカンヌ国際映画祭でパルムドール賞を獲得したが、その映画のロケが私が以前住んでいたマンションで行われたので、私は市原悦子さんをこっそりと見た。そして、彼女が化粧している姿も見た。
 ロケは一日かけて行われ、彼女は同じシーンを何度も演技した。今村監督の厳しさに応えて、彼女は耐えに耐えた。役者魂を見た。
 撮影が終わって帰宅する市原悦子さんはすがすがしそうであった。
 私は彼女の背中を見た。「女優」という文字が見えた。
 「うなぎ」が公開上映された時、私はさっそく観に行った。市原悦子さんの出番はほんの少しであった。「えっ、あれだけ時間をかけて撮影したのに?」というのが映画を観ての感想であった。