私のドクター

先月、猛暑続きの日に、見覚えのあるお医者さんがテレビの取材に応じていた。
 「塩分、塩分と言いますが、塩分の摂り過ぎはいけません。普通にしていればいいのです」
 それだけを聞けば、なんて冷たい言い方をする医者かと勘違いされるかもしれない。表情も硬かった。
 しかし、そのお医者さんは、私が去年10月に1ヶ月ばかり骨折で入院していた救急病院のドクターである。彼は口数が少ないタイプだが、誰にでも優しい。私の入院許可を出してくださったのも彼。ギプスを巻いたり、カットしてくださったのも彼。退院する時、「もう転ばないでね」と心をこめて言ってくださった。だから、私はその言葉をいつも思い出し、注意深く階段を降りている。
 私は比較的、都内を歩いているほうだから、テレビのマイクを持った人が寄って来ることがある。しかし、すべてお断り。緊張した顔は画面を通して誤解されて見られるからだ。そして、自分の意見を述べても、編集されればおしまい。
 テレビでは人はわからない。望ましいのは、直接会って、相手の言葉を直に聞くこと。それに限る。