哀悼のタイ王国(10)

バンコク第2日目(10月20日)、朝5時からテレビをつけた。盲目の女性が美しい声で歌っている。4歳で失明した彼女は、現在、ランシット大学生。国王が作曲された歌をこれからもずっと歌い続け、若者に聞いてもらい、後世に永遠に残して行きたいと語った。
 画面は変わって、伝統芸能であるリケー(ลิเก)芝居の役者がインタビューに応じていた。国王の庇護を受けたことをとても感謝していた。ラーマ5世時代にマラヤ(=マレーシア)から入って来たこの大衆演劇は、今から50年前までは街中にリケー小屋が有り、人々は寸劇を見ながら爆笑していたものだ。約40年前、私はそのリケー芝居を見たいと思い、バンコク在住の若いタイ人に「どこへ行けばいいですか?」と尋ねたことがあるが、「もう有りません」と、すかさず言われた。
 だが、テレビに押されて街中から消滅したリケー芝居の役者を、国王がずっと激励し続けて来られていたことを知り、国王の伝統芸能に対する恩寵は慈悲そのものであると感じ入った。