『青べか物語』に出てくる漢字

 山本周五郎の『青べか物語』を読んだ。冒頭部分は以下の如くである。
 「浦粕町は根戸川のもっとも下流にある漁師町で、貝と海苔と釣場とで知られていた」
 浦粕町の舞台は浦安、そして、根戸川は旧江戸川であることは本の解説でわかった。
 私が驚いたのは、作者の山本周五郎が、難しい漢字を多用している点であった。鮠(はや)、鯊(はぜ)、鱸(すずき)、獺(かわうそ)、鼬(いたち)、葭簀(よしず)、蓆(むしろ)、莨入(たばこいれ)、半纏(はんてん)、襷(たすき)、吝嗇漢(りんしょくかん)、皺(しわ)、厩(うまや)、鬱陶しい(うっとうしい)、お饒舌し(おしゃべりし)、金轡(かなぐつわ)を嚙(か)ます、冒瀆的(ぼうとくてき)、顎(あご)、等々。
 作家なのだから、この位の漢字を原稿用紙に書き連ねるのは当たり前かもしれないが、PCソフトが無い時代だから、当然、手書きで書きまくったわけだ。昔の作家は画数が多い漢字でも、すらすら書けたということになるから、漢字を忘れることはなかった。現代は便利すぎるが故に、漢字が書けなくなっている。