手仕事 

先日、NHKで「逸品」というタイトルの番組を見ていると、冒頭からいきなり目白が出てきて、公園でママさんグループと子供達がランチをしている光景が紹介された。ポイントはランチを入れた弁当かごであった。やがて築地に場面が切り替わり、魚を買付けに来ている人達がいずれも皆、竹かごを持って市場を歩きまわっているという映像になった。
 それらのかご製品が、鳥越かごと呼ばれ、岩手県鳥越地区で千年に亘って連綿として手作りされてきたことを初めて知った。作っているご夫婦はいずれも後期高齢者(84歳と79歳)。「この地方は何もないですから。ただひたすら作っているだけですよ」と、謙虚に言っておられたのが印象的であった。
 『大停滞の時代を超えて』(山崎正和 中央公論新社 2013年)の中に、「手づくりの意味の変遷」という項目がある。「示唆的なのは、手仕事が道具を介して素材の抵抗を人に伝え、対象の反作用を精神に与えるという事実であろう。頭が一方的に機械に命令を下す作業は、効率という点ではめざましいものがあるが、けっして逆に精神を刺激する力を持たない」という文章が気に入った。
 毎日、淡々と鳥越かごを編まれる老夫婦。おそらく百歳まででも同じ調子で編まれることであろう。