ポチ と ハチ公

『二葉亭四迷の明治四十一年』(関川夏央著 文藝春秋刊 1998年)の中に、次なるくだりがある。
 「二葉亭の犬猫を好むことは尋常ではなかった。官報局に勤めはじめたばかりの頃、役所からの帰り道についてきた狐に似た醜い犬を飼い、ポチと名づけてかわいがった。居留地のフランス人が飼い犬を<プチ>と呼び、そのなまりの<ポチ>が明治日本に広まり、以来日本の犬の代表的な呼称となったのである」
なるほど、明治の人には、<petit>というフランス語が、<ポチ>に聞こえたというわけか。だが、「a, i, u, e, o」という母音しか無い日本語においては、そう呼ぶしかなかったのであろう。文明開化の明治時代、フランス人が話すフランス語は相当におしゃれに聞こえたはずである。
 ところで、昨日のニュースで、渋谷駅周辺の開発が本格的に始動し始めたものの、ハチ公の今後の設置場所が決まっていないそうだ。純日本風の立派な名前のハチ公。今では、珍しい名前になってしまっているが、忠犬ハチ公よ、永遠なれ!