お稲荷さん

 先日の昼、鬼子母神近くの鮨屋に行くと、せっせと寿司を握っている大将に向かって、おかみさんが、「Aさんの家には届けますか? Bさんの家はどうしましょうか?」と、いちいち訊いている。手には葉書がいっぱい。すでに宛名書きが終わったようだ。今から届けるとなると年賀状ではない。もしかすると、閉店案内かもしれないと思い、おかみさんが料理を運んで来た時、おそるおそる尋ねてみた。「何の案内ですか?」
 すると、鬼子母神境内にあるお稲荷さんの初午祭の通知だと答えた。「最近はお稲荷さんのお参りが少なくて。若い人は関心が無いんですよね」と、淋しそうにつけ加えた。横から、大将が割って入った。「私は講元をしているんですよ。あの稲荷は鬼子母神よりも前から、鬼子母神境内にあったんだからね。」
 講元と聞いて、大将の顔をしっかりと見た。おかみさんが、「どうかお参りしてください」と言って、私にも葉書をくださった。葉書には冒頭に、こう書かれてあった。「武蔵の国雑司が谷鎮座四百八拾年 鬼子母神の地主神 開運出世武芳稲荷初午御通知」
 大変なお世話をしている講元の鮨屋さんに、どうかお客がたくさん来ますように!