時計屋さんの親子

朝起きてみると、腕時計が止まっていた。そこで、行きつけの時計屋へ行った。ところが、「しばらくお休みをいただきます」という貼り紙がしてあった。困ったなあと思っていると、時計屋の反対側にあるせんべい屋の主が、見るに見かねて「よかったら、私が直しましょうか」と言ってくれた。そこで、どうなるかわからなかったが、一か八かでお願いすることにした。
時計の裏を開けて、レンズで眺めこむ姿がいつもの時計屋のおじさんにそっくりであった。「あのー、もしかして息子さんですか?」と私は尋ねた。答えはやはりそうであった。
「私はせんべいを焼いているのが性に合っているんですが、83歳の親父がそろそろ引退なので、ご贔屓のお客さんのために、引き継いでいかなければと考えてはいるところです」
50年以上、やっている時計屋さん。さぞかし顧客はついていることであろう。電池交換が終わって代金を訊くと、親父さんの半額であった。まだ見習い中なので、高くはもらえないと言った。なんと、謙虚なことか。