邦文タイプライター

昨日は3月下旬並みの気温に後戻り。雨音を聞いた途端、家にいることに決めた。そして、『恍惚の人』(有吉佐和子著 新潮社 昭和47年)を本棚から引っ張り出して読んだ。箱付きの本である。当時としては箱付きの本が珍しくなかった。

「昭子はさっさと書類の整理をしてから、邦文タイプライターの前にきちっと腰かけて、指でキイを叩き始めた。それは裁判所へ提出するごくありきたりな簡単な書類だったのだが、昭子は幾度も手の甲で眼をこすり、原稿に顔を近づけて文字を確認し、何回となく瞬きし、やがて苦労して打ち終わった一枚のタイプ用紙を見て、声も出ないほど驚いていた」

法律事務所に勤務する主人公の昭子。邦文タイプライターが出て来たので懐かしさを覚えた。刊行した途端、大ヒットした昭和47年は西暦で言うと1972年。有吉佐和子はこの小説を書くにあたって10年間の取材をしたそうだ。ということは東京オリンピック(1964年)以前から、認知症のテーマをあたためていたことになる。今やAIの時代。便利すぎ…..。