少年と私

日曜日の或る日、自動販売機の前に父親と少年が立っていた。彼らはなかなか買おうとしない。少々急いでいた私は「お先に失礼」と言って水を買おうとすると、少年が言った。「それよりもこっちのほうがおいしいよ」と。「そうね。でも高いからいや」と私。

普通の水を選んだ私は少年がボタンを押したがっているのに気づいた。そこで彼に押す機会を与えた。ペットボトルを取り上げた私は数歩離れたところでふたを開けようとしたが開かない。そうだ、少年にお願いしようと思った。彼は気持ちよく開けてくれた。

この間、父親は何も言わず立っていた。少年は少年でごくさりげなかった。私もさりげなさを通した。見知らぬおばあちゃんを相手にした少年のわずか数分の場面。それを見て一番喜んだのは寡黙なる父親だったかもしれない。