王宮前広場へ(12)

お粥を食べ終わったのが午後8時。すぐに道路を横切って、ボーウォーン寺院の中に入って行った。本堂では夜の読経が行われていた。大勢の僧侶が本堂の壁沿いにずらりと座り、大僧正と共に唱和していた。入り口近くには善男善女が座っていた。ラーマ9世に捧げる読経であることは十分に想定できた。
 境内には一枚の写真が掲げられていた。ラーマ9世が大僧正の前で頭を低くして、御自分の胸の内を聞いてもらっているような感じの写真である。聞くところによると、プミポン国王は御自分で車を運転され、この寺院によくいらしていたそうだ。そのような時には、おそらく国王としてではなくて、一私人として、説法をお聞きに来られたに相違ない。
 昼と夜の御火葬殿をしかと目におさめ、エメラルド寺院の壮大なる威厳に圧倒され、さらには、ラーマ9世の御遺灰が安置されたボーウォーン寺院の本堂まで上がれて、私は本望であった。
 ボーウォーン寺院を去る時、もう一度、本堂の方を振り返った。大きな仏像の前に、もう一つ、中くらいの仏像が配されている。その若き仏像が私の眼にはプミポン国王の生まれ代わりのように見えてならなかった。