王宮前広場へ(9)

ニタット先生の奥様はプリンセスの称号を有する。したがって、ラーマ9世の御葬儀には親族として正式に参列しておられる。その時の写真を見せていただくと、ニタット先生も官僚達が着る白い制服に黒い腕章をして、とても恭しい表情で写真におさまっておられた。
 お二人はすでに御火葬殿に行かれたわけであるが、私のためにわざわざ案内役をかって出られ、さらに、杖を引く私を最初から最後まで気遣ってくださり、とても有難く思った。
 夜の御火葬殿は想像していたよりもはるかに荘厳であった。それをタイ語で表現すると、「วิจิตรงดงามตระการตา 得も言われぬ美しさ」というそうだ。これを「絢爛豪華」とも訳そうと思えば訳せるが、実際に見てみると、決して華美ではなく、ラーマ9世の御昇天にふさわしき須弥山としての神々しさが感じられた。
 ニタット先生御夫妻は「10月26日午後10時、ラーマ9世が荼毘に附された煙をしかと見届けました。その前にはパラパラと雨が降りました」と臨場感あふれる体験を聞かせてくださった。
 僧侶達が読経した付随殿には、現在、ラーマ9世の御来歴を紹介した展示が行われている。随所に飾られた植木鉢はラーマ9世の「๙」の字が大きく浮彫りにされているが、それらの作品はタイの人間国宝である陶芸家が無償で焼いたものだそうだ。