神田川日記(3)

病院での初めての夜は訳が分からず過ぎた。悔やんでも仕方がない。骨がくっつくまで全治1ヶ月半。松葉杖ではなくて杖で帰れるまで病院でお世話になるしかなかった。
 6時起床。カーテンを開けると、反対側のベッドにいる女性と目が合った。先輩に対して丁寧に挨拶をした。その方はスーパーでの買物を終えて、ビニール袋に入れた商品を持っていざ帰ろうとした時に、誰かが捨てて行った白菜の外側のきたない葉っぱの上に足を乗せた途端、滑って転倒し、背骨を圧迫骨折したそうである。
 自己紹介がてら私がタイ語の先生であることを言うと、野菜のおばあちゃんはすかさず応じた。「私の息子はタイに20年も住んでいたからタイ語がペラペラよ。今度、息子が来た時、タイ語をしゃべってごらんよ」
 彼女の言い方は、まるで自分の息子に私のタイ語力をチェックさせるからと言うふうにも受け取れた。