神田川日記(1)

10月17日午後1時前、私は教室が入っているビルの入り口の階段を降りた途端、足が滑り、早稲田通りに向かって正座をしていた。通行人達が「大丈夫ですか? 救急車を呼びましょうか?」と駆け寄って来てくれたが、捻挫だと思い、「大丈夫です」と答えた。そして、その瞬間、「ああ、23日からのバンコク行きはもうだめだ」と諦めざるを得なかった。
 病院へ行ってレントゲンを撮ってもらうため、ビルの管理員さんの手を借りながらタクシーに乗り込み、神田川沿いにある病院へ行った。そこは通訳の仕事で行ったことがある病院である。
 レントゲンを見た医師は「足首にひびが入っています」と言ったあと、私の右足にすかさずギプスを巻いた。松葉杖を渡されたが使い方が分からず帰るに帰れない。買物や食事のことを考えると、入院の選択肢しかなかった。生まれて初めての入院生活。血圧が一気に190に上がった。かくして、11月18日の退院まで、33日間の奇妙で不自由な生活に突入した。