高潔な人

『生き方の美学』(中野孝次著 文藝春秋 平成10年)は全部で13話から構成されている。話題を列挙すると、高潔、滋味、理想、名人、矜持、誠実、自足、清廉、使命感、無私、出処進退、友情、そして、パブリック・サービス、である。
 第1話の「高潔」の中には、小島祐馬(1881-1966)という元京都大学文学部教授のことが紹介されている。在任中、持前の高邁なる精神で、陸軍大将までこてんぱんにやっつけたものの、60歳の定年を機に潔く故郷の土佐に戻り、<南海の隠逸>として、晴耕雨読の毎日を送ったそうだ。吉田茂首相から是非とも文部大臣にと打診されても一顧だにしなかったとのこと。
 中野氏は最後にこう書いている。「それにしてもこういう人物がつい先頃までこの国にいたかと思うと、救われる気がする。それくらい昨今の政治家の行状は人間としてあまりにだらしないものが多すぎるのだ」