桜見物 北上(2)

元タイ人講師はライトアップまでずっと展勝地にいたいと言い出した。しかし、北上川に吊り下げられた鯉のぼりがまるで龍の如くくねっていること、そして、陽がかげってくるとともにどんどん寒くなって来たので、一旦ホテルに帰ることにした。
 案の定、彼女は言った。「ライトアップに行くのやめたわ。風が強いから」。
 そこで、ホテル近辺の食堂で夕食をとることにした。最初に入った店は予約が入っているということで断られた。2軒目の店に行ってみると、昭和の匂いのする食事処であった。客はゼロ。寒いので、その店で我慢することにした。
 店主は声が出ない方であった。小さなホワイトボードを使って客と意思疎通だ。店に貼り紙がしてあった。「声が出ません。何でもつくります」
 料理は美味しかった。しかし、一人で切り盛りしているから、一品が出て来るのに30分もかかった。だから追加注文はあきらめた。「お客さん、来ないの?」と尋ねると、彼はボードに「これから」と書き、笑顔を見せた。生涯独身だそうだ。それは私も同じだから、二人一緒に記念写真を撮った。