或る歌人の人生

泰日文化倶楽部の隣りのビルに24時間営業の書店がある。昨日、そこで『無名の人生』(渡辺京二著 文春新書 2014年)を購入。
 著者の渡辺氏が熊本在住ということで、熊本の歌人のことが紹介されている。
 「戦前の熊本に<宗不旱>という歌人がいました。….中略…. その彼は、かなり豊かな商人の息子として生まれたのですが、朝鮮半島や中国大陸、台湾を放浪して硯づくりの技術を身につけ、日本に帰国後は硯工(けんこう)として生計を立てながら歌作に励みました。亡くなったのは、昭和十七(1942)年。かねて行方不明だった彼は、熊本の乗鞍山中で遺体が発見されました。まさに野垂れ死にです」
 著者は<陋巷に生きる>というテーマとして、この歌人を紹介しているわけだが、私は違った角度からこの歌人に興味を持った。大陸に渡り、硯づくりの技術を身につけたことはすばらしい。単なる大陸浪人として放浪しただけではなかったのだ。