バンコク今昔物語(8)

元王妃の御棺が安置されている宮殿に近い回廊まで来た時、ピシッと糊のきいた白い帽子と制服の看護師3名が小さなプラスチック容器を皆に配った。容器には、「กองแพทย์หลวง / พิมเสนน้ำ พระราชทาน」と書いてあった。「王室医務局 / メンソール入り液体吸入剤 下賜する」という意味である。「長時間、よく頑張りました! この気付け薬で気分一新してくださいね」という配慮がタイらしかった。

いよいよ最後の待機所まで案内されると、「靴を脱ぎなさい。荷物はイスの上に置いておくこと」という指示を受けた。そして、いよいよ御棺の間へと導かれた。「平伏の姿勢を取りなさい」という指示が2回有ったので、皆は2回、体を床につけてひれ伏した。黄金の間に安置された元王妃の御棺とお別れをすると、出口には僧侶が4名、高座に座って読経を唱えていた。その読経はさわやかな風とともに、宮殿の外へとなびき、穏やかな時間が流れていた。