著者と訳者

新潟在住の親友は老人ホームに入ることを決意。目下、荷物の整理中である。先月の上京時、『スペイン市民戦争の国際義勇兵』(グスタフ・レグラー著/アーネスト・ヘミングウェイ序/北村智明訳 2015年発行 非売品)というとてもぶ厚い翻訳本を持って来て、こう言った。「この本を10年、私のそばに大切に置いてきました。これからの10年、あなたが持っていてよ。10年後は処分していいから」

著者の履歴=1898年ザール地方、メルツィッヒに生まれる。ハイデルベルクとミュンヘンの大学で学び卒業後は作家ジャーナリストとして活躍。ヒットラーが政権を獲得、国会議事堂放火事件後、フランスに亡命。1936年スペイン市民戦争に参加、翌年1937年フエスカで重傷を負い、マドリード、パリで療養後アメリカ、ヨーロッパ、中南米などでユダヤ人弾圧に抵抗し、ファシズム、スターリズムと戦い、1963年インド、ニューデリーにて客死。

訳者の履歴=1925年東京に生まれる。1949年東京外事専門学校(現・東京外国語大学)本科ドイツ科卒業。新潟薬科大学名誉教授。日本独文学会会員。共訳書『明治初期御雁医師夫妻の生活』玄同社1987、「クニッピングの明治日本回想記」玄同社1991。

長々と引用したのには理由が有る。著者の生きた軌跡が多国に及ぶことに驚いたからだ。まさしくジャーナリスト! そして、訳者である北村氏が東京外国語大学の先輩であり、ドイツ語を長きにわたり職業として愛したことに敬意を表したい。

「北村先生は本の完成を見届け、平成27年10月7日、安心したかのように旅立たれたそうです」という出版関係者による手紙が表紙の裏に添えられていた。享年90歳。