『時の終りへの旅』(辻邦生著 筑摩書房 1977年)を読んだ。その中で、次なる文章が気に入った。
「大体においてフランス人が食事をするとき、食事を食べる(筆者注:食の漢字の横に、口偏がついている)のが目的なのか、喋るのが目的なのか、わからないほど、よく喋るのは、特に話題が豊富だからではなく、事物についての目じるしの付け方が明快で秩序立っているからである。
こうして事物の要点に付けた目じるしに沿って、あるいは論理的進行が指し示す論証の目じるしに支えられて、初めて思想を前へ展開してゆくことができる」
日本人は総じて、無口である。無口であることが美徳でもある。食事中に喋ろうものなら、周囲の目が厳しい。言質をとられないためには黙っているほうが得である。学校では、「シー、静かに!」と小学校時代から言われっぱなしだ。
そんな日本人に外国語のクラスで「喋りなさい。ディベートしなさい」といっても…..。
フランス語の勉強は継続しているが、単語を覚えるのもなかなか思うようにいかない。男性名詞なのか、女性名詞なのか、と考えるだけでもいやになる。動詞の活用形でいつもつまってしまう。だが、講師は根気よく教えてくださる。それだけが唯一の救いだ。フランス人とペラペラお喋りする日は絶対に来ないであろうが、フランスの文化の香りに接するだけでよしとしよう。