『安部公房とわたし』(山口果林著・講談社 2013年)を読んだ。タイ好きの彼女は朝日カルチャーセンターでタイ語を習ったことを書いてあった。その時、教えた講師は私である。発音を丁寧に矯正してあげたが、本職の台詞を覚えるよりも難しそうにみえた。
本書の中で、彼女がタイに対する感想を述べている。描写が生き生きとしていて、すばらしいので、以下に引用させていただく。
タイのプーケットが特に居心地が良かった。時計の針がゆっくり進む。じっとりとした暑さの中、木陰で深呼吸し、波間に漂い、情報を遮断して一瞬一瞬だけを味わう。仏教の懐の深さを、タイで感じた。消された私を、優しく受け止めてくれる。「生きているだけでもいいのだよ」
彼女と知り合ってから、彼女の出演する劇を何度か観に行ったが、台詞と演技はいつも完璧であった。おそらくタイで充電して、英気を養ってこられたに違いない。