バンコク元特派員

『百歳以前』(徳岡孝夫・土井荘平 文藝春秋刊 2021年)を読んだ。ベトナム戦争の頃、毎日新聞特派員としてバンコクに駐在していた徳岡氏(95歳)のことが知りたかったからである。当時のタイについて彼はこう書いている。

「東南アジアにおけるアメリカ側の中心であるタイは、米国の甚だ頼りない友軍で、軍事政権が財政と軍事を握り、完全に腐敗した政府を押しのけて、力にものを言わせ、一応国内を治めている。少し危ないが、国王のカリスマで治めて無事にすごしている。そんな状態だった」

徳岡氏の東南アジアに於ける取材体験談はとにかく面白かった。さらに驚いた点が有る。それは彼が新聞記者として駆け出しの頃、高松支局に勤務し、紫雲丸沈没事件(昭和30年5月1日)を取材していることであった。その時、私は小学校3年生。重苦しい空気感を今でも覚えている。