一昨日の炉開きの時に使われた大棗は輪島塗で、模様は老松であった。見事な枝ぶりに瞠目した。そして輪島と聞いて、今年の元旦に能登半島を襲った地震の犠牲者や被災者に思いを馳せた。私は茶道講師に尋ねた。「このお棗は先生が何歳の頃、お求めになられたのですか?」
茶道講師はよくぞ聞いてくださいましたとばかり、その棗を入手した経緯を語ってくださった。「若い頃、目上の知人から何が欲しいですかと聞かれたので棗だと答えると、その方は輪島塗の棗を購入してくださったのよ」
その殿方はもはやこの世の人ではない。だが、輪島塗の老松は永遠なる輝きを発している。彼が心燃やして探し求めた逸品であることは一目瞭然。輪島の職人さん達に言いたい。今はおつらいであろうが、茶道を愛する日本人のために、輪島塗の伝統美を守り続けて行ってください、と。