岡本太郎と外国語

『にらめっこ』(岡本太郎著 番町書房 昭和50年)の中に「私と外国語」というエッセイが所収されている。岡本太郎は慶応で小学校1年から11年間、英語を習ったが、「その英語、今なお人前でしゃべれるようなシロモノでは決してない」と述懐している。

ところが、フランス語は違った。長い引用になるが、傑作だからそのまま書いてみよう。

「父母についてパリに行ったのが十八才の時。もちろんはじめは心細かった。ところが一ヵ月もするうちに、自然にとけこんで、別段不自由を感じなくなった。やがてパリジェンヌの恋人ができたら、ますますあざやか。猛烈な口げんか、仲直り、一晩中ケンケンガクガクとやって、おかげで咽喉がはれあがり、翌日、気管支炎をおこして寝こんでしまったこともある。その代わりにフランス語の方は、彼女などに決して負けないほどミガキがかかった」