新聞を読もうと思って、行きつけの喫茶店に行った。中央の大きなテーブルに座った。すると、すぐ近くに老人と若い女性が会話をしていた。新聞を読むよりも、二人の会話を聞くほうが面白くなったので、ずっと聞いてみることにした。
女性は中国人であった。日本語がうまい。口が重い老人の口を、彼女の話術でどんどん開かせていく。
「来週、郷里で同窓会があるんだ」
「郷里はどこ? 私、車で連れて行ってあげるよ」
「宮城だ。福島の先だ」
「秋田よりもむこう? 連れて行ってあげる」
老人の淋しさをくすぐるのが実にうまい。明日も会う約束をしていた。
老人はひまだから、老人をさがして老人とおしゃべりすれば、日本語がどんどん上手になる。
彼女は髑髏の絵がたくさん入った服を着ていた。バッグの模様も髑髏。それを見て、空おそろしくなった。