高級シルクの店に置いてある服は、いずれも素敵なものばかりだが、日本では着こなせないようなデザインなので買わなかった。店の女性は古いバティックの生地にモン族の刺繍が入ったジャケットをしきりにすすめた。「この手の古い手作りのものは、いずれ近いうちに無くなりますよ」、と。
壁には中国式デザインの刺繍服が飾られてあった。布地が黄色であったので、中国の西太后が着る服のように見えた。
コーヒーを飲みながら、モン族の服を眺めること1時間。結局、買うのは断念。買っても着る機会が少ないと思ったからである。
次に、マーブンクローンへ行ったが、ここもなんだかいつもの活気は無かった。周囲の道路が封鎖されていたからである。
象の模様が入ったコットンのスカーフが目にとまったので、値段を聞くと250バーツ。「240バーツにしてよ」と言っているところに、欧米人の客がやってきた。店のおばちゃんはそちらの対応で、私を無視した。だが、欧米人の女性は何も買わずに店を去った。
「このスカーフ、いくら?」と、私はもう一度聞いた。「200だよ」と言ってきた。「あれ、さっき250って言ってたじゃん」と、私が言うと、「200って言えば、200だ」と鋭い剣幕で言い返してきた。買う客が少なくて、むかついているように見えた。私はそれ以上、値段交渉をするのはやめて、1枚だけ買った。
別のフロワーで、欲しかったオーガニック・コットンのTシャツを買ったが、この店のおばちゃんも不愛想であった。
「ああ、早くデモが終わらないかなあ。でないと、微笑みの国が、不愛想の国になりかねない」と、心でつぶやいた。