バンコクの「桜や」で会う約束をしていた教え子のS君が午後7時過ぎに予定通り店に現れた。
開口一番、「僕、今日、会社を休んだんですよ。毎晩、帰りが遅いので、とても間に合わないと思ったから」
彼の勤務先がチョンブリ県のアマタナコン工業団地であることを知り、私は非常に申し訳なく思った。
「いや、いいんですよ。たまには休まないと」
道理で、休養を十分にとった彼はスカッとしており。おしゃれも決まっていた。
「先生、僕は大学時代、先生が教えてくださったことを10%とすると、残りの90%は僕自身で勉強しました。とにかく、めちゃくちゃ勉強したんですよ」
それを聞きながら、なるほど、S君はやっぱり違うなあと思った。
「僕はこのまま一生、タイに住んでもいいと思っています。まだまだ頑張りますよ」
有能な彼をヘッドハンターが見逃すはずはない。提示される給料も破格だ。だが、彼は決してぎらついていない。現在の会社に忠誠心を示しながら、タイという国をしっかりと把握し、理解しようとしている。