土佐の言葉

『歴史を紀行する』(司馬遼太郎 文春文庫 1976年)の中に、「竜馬と酒と黒潮と(高知)」という章が最初に出てくる。土佐の古名は、『古事記』の中では[建依別(たけよりわけ)の国]と書かれているということを初めて知った。この命名の由来には、「剽悍でたけだけしいひとびとの棲む地帯という印象がすでにあったのであろう」と司馬氏は評している。
 さて、土佐の言葉であるが、本居宣長の『玉勝間』の中には、土佐人の発音の正確さについてほめて書かれているとのこと。これまた驚きだ。土佐の人は、水を<midu>と発音し、<づ>と、<ず>の違いができるそうだ。<ぢ>と、<じ>の違いもできるとのこと。
 「維新後、奥州会津の小学校で発音矯正教育がおこなわれたとき、その教師は東京から呼ばれず、僻地の土佐からよばれたという。こういうことから考えても土佐弁の明快さは世間の常識になっていたのであろうし、幕末の土佐系志士たちが田舎からいきなり政論の中央舞台に出ておめず臆せずに罷り通りえたのも、また維新後自由民権運動の中心的存在になり、荘士たちが各地を演説してまわれたのも、こういうことがかれらを大きく力づけているようにおもわれる。東北人にとって生涯つきまとう自己差別の意識から、土佐人は最初からあかるく開放されていたのである」
 引用が長くなったが、我々も明確に発音することをこころがけ、相手に伝わりやすい発声をしよう。