孫太郎の「南海紀聞」

 私は旧い雑誌を取っておくのが好きだ。一昨日、『新潮45』(1994年4月号)を箱から取り出して読み返した。その中に、「二百年前の東南アジア紀行 ~漂流記の古典「南海紀聞」より~」に関心を覚えた。書いた方はノンフィクション作家の門田修氏である。
 門田氏は、「南海紀聞」を史料として、1764年に福島県塩屋崎の沖合で難破し、101日後、ミンダナオ島に漂着した「孫太郎」という人物を紹介している。孫太郎が無事に日本に帰還できたのは7年後。その間、奴隷として売られ、ボルネオ島やスラバヤ、ジャカルタ、パレンバン、等を経て、長崎に戻っている。
 孫太郎がすばらしいのは、見聞したこと(ボルネオ島の首狩りの風習、南海に居住する中国人たちの生活、オランダの活躍)をきちんと覚えていたことだ。「鎖国から百数十年たっていたその頃、漂流民は貴重なナマの海外情報源だった」と門田氏。孫太郎が現地の言葉に通じていたことが、彼の見聞を広めたとのは間違いない。