正直者の若者

 日本全国には機織り女に関する話がいくらでも有ると思われる。新潟県魚沼地方には巻機山という山が有り、織姫伝説が残っているそうだ。その一例として、次なる話を読んだ。
 「すばらしい技術を有する娘が御機屋(特別な布を織るための霊威に満ちた部屋)で機織りに精を出していたところ、好きな男が訪ねてきたために逢瀬を楽しんだ。しかし、その後、斎戒沐浴をせずに機織りをしたため、娘は病気になった。神様の祟りを恐れた若者は、娘の親に事実を正直に話し、自分が悪かったといい、厳冬の中、冷水をざあざあと浴びながら祈った。同情した周囲の人間も若者と一緒に水垢離をして祈った。すると、やっと神様に聞き入れられ、娘の病気が治った。やがて、二人は正式に結婚し、男の子が生まれた。その家は今も栄えている」
 正直者の若者がいたからこそ、娘の機織りの技術は伝承され、子孫繁栄にもつながったという話だ。
 今、世の中は実にかまびすしい。我々は昔話を読んで、人間の原点に戻る必要がある。