哀悼のタイ王国(6)

 「ヤーンナワー寺院のマッサージはすばらしいから、ここでやりましょう」とクン・メーから誘われたので、素直に従った。マッサージをする中年女性にまずは国王のお悔やみを言い、彼女の反応を見た。だが、案の定、無口であった。そこで、個人的な話に切り替えた。
 「何県出身なの?」
 「サコンナコンです。サコンナコンの山の頂上に、国王がお泊りになられる御殿(ตำหนัก)が有ります。国王は毎年のようにサコンナコンにいらしてくださったんですよ」
 彼女がこれだけのことを喋ってくれただけで、私は満足した。国王がイサーン地方へ繁々と行幸あそばされていたことが、庶民の口を通して如実にわかったからだ。
 マッサージの後、タクシーでシーロムへ行き、こじんまりとした食堂で、クン・メーのお勧めに従い、カエル(กบ)を食べた。カエルを食べるのは初めて。「国王が蘇る(よみがえる)」ことを願う気持ちが私には強くあった。